物流ロボットによる搬送自動化入門:コンベヤ・AGV・AMR比較と選び方

著者:代表社員CEO 守谷祥史

物流ロボットによる搬送自動化入門:コンベヤ・AGV・AMR比較と選び方

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はじめに:物流自動化が加速する背景と、ソリューション選択の重要性

物流業界は、EC市場の拡大や労働力不足といった課題に直面しており、倉庫内業務の効率化が急務となっています。特に、商品の移動や仕分けといった搬送業務は、多くの時間と労力を要する工程であり、その自動化は生産性向上に不可欠です。

しかし、一口に搬送自動化と言っても、その方法は多岐にわたります。

この記事では、代表的な搬送自動化ソリューションであるコンベヤ、AGV(無人搬送車)、AMR(自律走行搬送ロボット)のそれぞれの特徴を比較し、皆さまの物流倉庫に最適なソリューションを選択するための一助となる情報を提供します。

コンベヤ、AGV、AMR それぞれの特徴

物流倉庫における搬送自動化ソリューションを比較していくポイントには、コスト、導入期間、処理能力、安全性、柔軟性、などがあります。これらのポイントから、それぞれのソリューションの特徴や注意点について、見ていきましょう。

伝統的な搬送自動化装置「コンベヤ」

荷物を「連続的に」「決まった通り道で」運んでくれる装置、と言うことができます。たくさんの品物を、同じルートで絶え間なく運びたい、そんなときに活躍する固定式の設備です。

メリット

  • 大量搬送時の高い処理能力と安定性があります。
  • 単純な構造のものであれば、比較的安価に導入できる場合があります。
  • 長年にわたる導入実績と確立された技術です。

デメリット

  • 設置場所が固定され、一度設置するとレイアウト変更が困難でコストもかかります。
  • 搬送ルートが固定されるため、柔軟な運用変更に対応しにくいです。
  • 設置に広いスペースを必要とし、通路を分断する可能性があります。
  • 導入工事に時間がかかる場合があります。
  • 一部が故障するとライン全体が停止するリスクがあります。

活用シーンの例

  • 保管場所から検品・梱包エリアへの搬送、大規模な仕分けセンターでの方面別搬送など、大量・定型的な搬送業務で活用されます。

ガイド走行の搬送ロボット「AGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)」

AGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)は、床に敷かれた磁気テープや、特殊なインクで描かれた線、QRコードといった「ガイド(目標)」を頼りに、決められたルートを走って荷物を運んでくれるロボットのことです。

メリット

  • コンベヤと比較して、レイアウト変更の自由度がやや高いです(ガイドの変更で対応可能)。
  • 導入コストはAMRより低い傾向がある場合もあります。
  • 特定のルートを繰り返し搬送する作業に適しています。
  • 人の作業エリアと分離して運用しやすいです。

デメリット

  • ガイドの敷設やメンテナンスに手間とコストがかかります。
  • 走行ルートがガイドに依存するため、AMRほどの柔軟性はありません。レイアウト変更の度に作業とコストが発生します。
  • 障害物検知機能はあるものの、基本的に停止するのみで、自律的な迂回は困難な場合が多いです。人と協働する点では限界があります。
  • 倉庫内の軽微な環境変化(床面の汚れ、ガイドの損傷など)で停止する可能性があります。

活用シーンの例

  • 工場内の部品供給、物流倉庫内での定型的なパレット搬送など、比較的固定されたルートでの搬送に利用されます。

自律走行の搬送ロボット「AMR(Autonomous Mobile Robot:自律走行搬送ロボット)」

AMR(Autonomous Mobile Robot:自律走行搬送ロボット)は、床の目印のような外部のガイドを基本的に必要としません。その代わりに、搭載されたセンサーを使って、自分の周りの状況をリアルタイムで把握します。そして、SLAM(スラム、Simultaneous Localization and Mapping)技術などを使って、自分が今どこにいるのかを理解しながら、目的地まで進むことができるロボットです。

メリット

  • 柔軟性があり、ガイド敷設が不要なため、短期間で導入でき、物流倉庫のレイアウト変更にも容易に対応可能です。
  • 人や障害物を検知し、自律的に迂回したり、最適な代替経路を探索したりできます。
  • 人と共存する環境での運用を前提とした安全設計がされている機種が多く、より安全かつスムーズな協働が可能です。
  • 必要に応じて台数を増減させやすく、スモールスタートも可能です。事業の成長に合わせて柔軟に能力を調整できます。
  • 走行データや作業データを収集・分析することで、さらなる運用改善に繋げられる可能性があります。

デメリット

  • 一般的にAGVと比較して初期導入コストが高くなる傾向があります。
  • 高度なナビゲーション技術や管理システムが必要となる場合があります。
  • 比較的新しい技術であるため、専門的な知見が求められる場合があります。
  • 非常に混雑した環境や特殊な床材など、苦手な環境も存在する可能性があります。

活用シーンの例

  • EC倉庫でのピッキング支援、製造ラインへの部品供給、工程間搬送など、多品種少量・変動量の大きい現場や、レイアウト変更が頻繁な倉庫での活用が期待されます。

コンベヤ vs AGV vs AMRの比較表

ここまで、それぞれの搬送自動化ソリューションの特徴や、メリット、デメリットを解説してきました。これらの情報を踏まえて、皆さまが「うちの物流倉庫にはどれがいいんだろう?」と考えるときの参考になるように、主なポイントで整理した比較表を下に示します。

この表は、コンベヤ、AGV、AMRを相対的に評価し、まとめたものです。導入する規模や、どの項目を重視するかによって、最適なソリューションは変わってきますので、現場の状況やニーズに合わせて個別に検討し、見積を取得することをおすすめします。

比較項目コンベヤAGVAMR備考
初期導入コスト×コンベヤは工事費が大きい、AMRはAGVより高い
ランニングコストコンベヤは電気代、AGV/AMRはシステム費が大
導入期間×固定設備への依存度に応じた導入期間が発生
処理能力コンベヤは大量の荷物を高速に搬送することに特化
安全性AGV/AMRは人と同じ空間で動作することが前提
柔軟性×AGV/AMRは比較的設備への依存が小さく増減可能

(◎:非常に優れている/〇:優れている/△:一般的または一部優れている/×:課題があるまたは適さない)

コンベヤか? 搬送ロボットか?

これらのソリューションを比べてみると、まず「コンベヤ」は、たくさんの同じような荷物を決まったルートで運ぶのにはとても強いのですが、一度設置するとレイアウトを変えるのが難しい、という特徴がありました。これに対して、「AGV」や「AMR」は、もっと自由に動き回れる、より柔軟性の高いソリューションと言えます。

AGVか? AMRか?

移動ロボットの中でも、AGVは床に敷かれたガイドに沿って走るため、ルートを変えたいときには、ガイドを貼り直す手間と費用がかかります。また、障害物に対しては基本的に止まることが主な対応ですが、AMRは搭載されたセンサーと回避アルゴリズムによって、自分で判断して動きます。そのため、床へのガイド敷設が不要で、導入やルート変更が素早く行え、障害物を自動でよけたり、人とも安全に一緒に働いたりする能力に長けている、というわけです。

このAMRの優れた「自律性」と「柔軟性」は、特に次のような場面で、その真価を発揮します。

  • レイアウト変更や工程変動が頻繁な現場: 物理的な工事なしに、すぐに対応できます。
  • 多品種少量生産や物量が変動する業務: 決まったルートに縛られず、その時々の指示に柔軟に応えられます。
  • 人とロボットが安全に協働する必要がある空間: 高度な障害物回避能力と自分で判断する力によって、これを実現しやすくなります。

AMRは、機能性の高さから、AGVに比べて初期の導入費用が高くなる傾向があります。しかし、導入の速さ、変化への対応力、人との協働による生産性の向上といった点は、これまでの自動化では難しかった課題の解決につながり、TCO(総所有コスト)で考えると、大きなメリットが期待できます。

また、その柔軟性を活かして、「少しだけ試してみて、うまくいけば本格的に」というスモールスタートや、集めたデータを活用して「もっと良くするにはどうすればいいか」を考える、といった継続的な改善を前提とした、使い方ができるのも魅力の一つと言えるでしょう。

AGVとAMRの違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

さいごに:自社に最適な搬送自動化を見極め、次世代の物流現場へ

本記事では、物流倉庫における代表的な搬送自動化ソリューションとして、コンベヤ、AGV、そしてAMRの特徴やメリット・デメリット、活用シーンについて詳しく解説してきました。大量・定型搬送に強いコンベヤ、ガイドに沿って効率的に走行するAGV、そして自律性と柔軟性に優れたAMRと、それぞれに得意分野があることをご理解いただけたかと思います。

重要なのは、それぞれの特性を理解した上で、自社の物流倉庫が抱える課題、取り扱う商材の特性、将来の事業展開などを総合的に考慮し、最適なソリューションを選択することです。初期コストだけでなく、導入後の運用コストや拡張性、そして何よりも現場の作業員の方々が安全かつ効率的に働ける環境を実現できるかどうかが、重要な判断基準となるでしょう。

どのソリューションが自社にとって最適か判断に迷う場合は、専門家への相談も有効な手段です。この記事が、皆さまの物流倉庫における搬送自動化検討の一助となり、より効率的で生産性の高い、次世代の物流現場の実現に向けた第一歩となれば幸いです。

当社について

BLUEDGE(ブルーエッジ)では、「あるべき姿」をともに描くコンサルティングと「あるべき姿」をカタチにするシステム開発を通じて、お客様の戦略策定から実行までを一貫体制でご支援しています。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)会員。

著者プロフィール

守谷祥史(Shoji Moriya)

BLUEDGE合同会社 代表社員CEO。15年以上にわたり製造業、小売・流通業、物流業などを中心に幅広い業界に対する事業/IT戦略の立案と業務改善、システム導入など実行に関するコンサルティングに従事。現在は、主にサプライチェーン・物流分野におけるソフトウェア、クラウド、AI、ロボティクスなどテクノロジー活用に関するコンサルティングとシステム開発を専門としている。

著者:代表社員CEO 守谷祥史

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