物流倉庫自動化の成熟度モデル

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はじめに:物流倉庫の自動化、どこから始める?一歩ずつ進めるための成熟度モデルとは
物流業界は、今まさに大きな変化の真っ只中にあります。インターネット通販、いわゆるEコマースの市場は成長を続けており、2022年の日本国内では、例えば個人向けの物販だけでも約14兆円(前年から5.37%も増えています)、個人間の取引(CtoC-EC)市場も2兆3,630億円(こちらも前年比6.8%増)と、その勢いはとどまるところを知りません。
このように、私たちの暮らしが便利になる一方で、物流の現場、特に倉庫では、たくさんの課題も生まれています。お客様のニーズはますます多様化し、よりスピーディーな対応が求められています。それなのに、働く人の数はなかなか増えず、2024年5月の運送業における有効求人倍率は3.15倍。これは、産業全体の平均1.05倍と比べても、非常に高い数字です。物流倉庫では、このような山積する課題に対応しながら、もっと効率よく、もっと生産性を上げていくことが、本当に急務と言えるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、『物流倉庫における自動化の成熟度モデル』という考え方について、皆さまと一緒に見ていきたいと思います。このモデルは、いきなり全ての作業を機械任せにするのではなく、まるで階段を一段ずつ上るように、自動化を進めていくための道しるべのようなものです。それぞれのステップで、どんな技術や仕組みに注目したら良いのか、そしてそれによってどんな良いことがあるのかを、具体的にお伝えしていきますね。
私たちBLUEDGEは、物流業界に特化したコンサルティングと、それを実現するためのシステム開発の両方をお手伝いしている会社です。この両面からのアプローチによって、お客様が抱える課題の根っこにある部分を深く理解し、どうすれば解決できるかという戦略作りから、実際に現場で使えるようになるまで、一貫してサポートさせていただいています。日々、物流とテクノロジーが交差する様々なプロジェクトに携わる中で、物流倉庫の自動化がいかに重要か、そしてそれをどう段階的に実現していくべきか、という点に強い問題意識を持つようになりました。
この記事は、そうした私たちの経験から得られた知見を基に、『物流倉庫における自動化の成熟度モデル』を分かりやすく解説するものです。物流ロボットの最新技術の動向なども踏まえつつ、皆さまの実際の業務に役立つような具体的なヒントをお届けすることで、倉庫業務の効率化や自動化を考える上での新しい視点や具体的なアイデアを得ていただけたら、とても嬉しく思います。
それでは、物流倉庫における自動化の成熟度モデルについて、一緒に詳しく見ていきましょう。
(参考記事)物流倉庫自動化の基礎:物流倉庫向けロボットの基礎知識
倉庫内業務の自動化の成熟度モデルってなんだろう?
物流倉庫の自動化といっても、その進め方は様々です。最新技術をどんどん取り入れることも一つの方法ですが、多くの場合、技術の難しさや投資のバランスを考えながら、一歩一歩進めていくのが現実的ではないでしょうか。
この記事では、自動化の進み具合をいくつかの段階に分けた『成熟度モデル』という考え方をご紹介します。具体的には、以下の4つのステップで整理しています。
- ステップ0: まだ自動化されていない倉庫
- ステップ1: 『運ぶ』作業の自動化
- ステップ2: 『一つの作業』に特化した自動化
- ステップ3: 『複数の作業』をこなす自動化
この成熟度モデルは、皆さまの倉庫がもっと効率よく、生産性の高い場所になるための一つの目安となるものです。各ステップでは、注目する技術や改善のポイントが異なります。倉庫の広さや扱っている商品の種類、どれくらい投資できるかといった状況によって、どこから始めるのが最適か、どのステップを目指すのが良いのかが変わってきます。
なぜ自動化は段階的に進むの?
「一気に全部自動化できたら楽なのに…」と思われるかもしれませんね。でも、自動化が少しずつ進んでいくのには、いくつかの理由があるんです。
1. 技術的な難しさ
やはり、単純な作業ほど、比較的簡単な機械やロボットで自動化しやすい傾向があります。複雑な作業になるほど、高度な技術が必要になります。
2. 投資と効果のバランス
たくさん行われる作業ほど、自動化することで得られる効果(人件費の削減や作業時間の短縮など)は大きくなります。費用対効果を見極めることが大切です。
3. システムの複雑さ
自動化する範囲が広くなればなるほど、システム全体も複雑になり、導入や管理の難易度が上がることがあります。
4. 投資の規模
一般的に、高度な自動化を目指すほど、最初に必要となる投資額も大きくなる傾向があります。
では、ここからはそれぞれのステップについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
ステップ0:まだ自動化されていない倉庫
まず『ステップ0』は、自動化システムがまだ導入されていない、従来型の倉庫のイメージです。この段階では、倉庫内のあらゆる作業が人の手によって行われています。作業員の方が歩いたり、フォークリフトを運転したりして倉庫の中を移動し、荷物を運んだり、仕分けしたりといった作業も全て手作業で行われている状態ですね。
どんな課題があるの?
人の手による作業には、どうしても限界があります。
(1) 効率が上がりにくい
人の移動スピードや一度に運べる量には限りがあるため、処理できる物量にも限界が見えてきます。
(2) コストがかさみがち
多くの人手が必要になるため、人件費がどうしても高くなってしまいます。
(3) 作業者への負担が大きい
重い荷物を運んだり、同じ作業を繰り返したりすることで、身体への負担が大きくなりがちです。
(4) ミスが起こりやすい
人が作業する以上、どうしても出荷ミスや在庫数のズレといったヒューマンエラーが発生しやすくなります。
(5) 作業量が安定しにくい
作業する人の熟練度や、その日の体調によって、作業のスピードや品質にばらつきが出てしまうこともあります。
ステップ0が必ずしも悪いわけではない?
「じゃあ、全ての倉庫がすぐに自動化を目指すべきなの?」というと、実はそうとも限りません。例えば、以下のような特徴を持つ倉庫では、『ステップ0』のままでも十分に効率的な運営ができている場合があります。
(1) 小規模な倉庫
扱う荷物の量がそれほど多くなく、今の人数で十分に対応できている場合。
(2) 多品種で少量の商品を扱う倉庫
商品の種類が非常に多く、一つ一つの量は少ない場合、自動化システムを導入するコストが見合わないこともあります。
(3) 業務量の変動が大きい倉庫
忙しい時期とそうでない時期の差が大きく、人の配置を柔軟に変える方が効率的な場合。
(4) 一時的に使っている倉庫
短期間だけ使用する予定の倉庫であれば、大きな投資をしても回収できない可能性があります。
ステップ0の倉庫でもできることって?
もし皆さまの倉庫が『ステップ0』に当てはまるとしても、諦める必要は全くありません。自動化のような大きな投資をする前に、まずできることから改善していくことで、生産性を大きく向上させられる可能性があるんです。
(1) レイアウトの見直し
作業する人の動き(動線)を分析して、もっと効率的に動けるように倉庫内の配置を変えてみましょう。
(2) バーコード管理の導入
ハンディターミナル(片手で持てる情報端末)を使ってバーコードを読み取ることで、在庫管理の正確さをぐっと高めることができます。
(3) ピッキング方法の工夫
例えば、エリアごとに担当者を決めて集める『ゾーン別ピッキング』や、複数の注文をまとめて効率よく集める『波状ピッキング』など、より効率的な集品方法を取り入れてみましょう。
(4) 目標管理の徹底
作業の実績を数字で『見える化』して、どこに改善の余地があるのかを常に把握し、継続的な改善につなげていくことが大切です。
これらの基本的な改善は、実は次のステップに進むための大切な土台作りにもなります。
ステップ1:『運ぶ』作業の自動化 ― 単純だけど効果は絶大!
次の『ステップ1』では、倉庫の中での『モノの移動』、つまり搬送作業の自動化に焦点を当てます。考えてみてください。倉庫の仕事の中で、荷物をあっちからこっちへ運ぶ、という作業は、実はそれ自体が新しい価値を生み出しているわけではありませんよね。でも、この『運ぶ』という作業は、倉庫業務の中でも特に多くの時間を占めていることが多いのではないでしょうか。だからこそ、ここを自動化するだけで、驚くほど大きな効果が期待できるんです。
どんな作業が自動化できるの?
具体的には、以下のような作業が対象になります。
- 入荷した商品を受け入れ場所から保管場所へ、保管場所からピッキングエリアへ、そして出荷場所へと運ぶ、工程間の搬送。
- それぞれの作業エリア内で、必要な資材や商品を移動させる工程内の搬送。
どんな技術があるの?
搬送の自動化を実現するための技術としては、主に以下のようなものがあります。
固定型の設備機器
- コンベヤ
ベルトコンベアのように、決まった経路上を自動で荷物を運んでくれます。 - 自動倉庫(AS/RS – Automated Storage and Retrieval System)
棚への商品の出し入れを自動で行うシステムです。
移動型の機器
- AGV(Automatic Guided Vehicle – 無人搬送車)
床に引かれた磁気テープやQRコードなどを頼りに、決められたルートを自動で走行して荷物を運びます。 - AMR(Autonomous Mobile Robot – 自律走行搬送ロボット)
AGVよりも賢く、自分で周囲の状況を判断して障害物を避けながら目的地まで移動できます。新しいルートの設定も比較的簡単です。 - AGF(Automated Guided Forklift – 無人搬送フォークリフト)
人が運転するフォークリフトと同じようにパレットなどを運べますが、それを無人で行います。
物流ロボットの活躍に注目!
このステップで特に活躍するのが、先ほどご紹介したAGVやAMR、AGFといった『物流ロボット』たちです。彼らは、倉庫の中でまるで働き者のように、荷物を黙々と運んでくれます。人が行っていた搬送作業を大幅に減らすことで、倉庫全体の運営をよりスムーズにしてくれる頼もしい存在と言えるでしょう。
どんな良いことがあるの?
搬送作業を自動化することで、様々な効果が期待できます。
(1) 効率がアップ
- 人が移動する時間がなくなるので、作業全体の効率が大幅に向上します。
- 例えば、夜間にロボットが搬送作業を済ませておけば、日中の作業をすぐに始められます。
(2) コストを抑えられる
- 搬送作業にかかっていた人件費を削減できます。
- 初期投資は必要ですが、長い目で見れば十分に元が取れる可能性があります。
(3) 従業員の負担軽減
- 重い荷物を運んだり、広い倉庫内を何度も往復したりといった身体的な負担が減ります。
(4) 安全性が高まる
- フォークリフトなど、人が運転する機器の使用が減ることで、事故のリスクを低減できます。
(5) 正確さが向上する
- システムが管理して搬送するので、届け先を間違えたり、荷物をなくしてしまったりといったミスが減ります。
導入する時に気をつけることは?
良いことずくめのように思える搬送の自動化ですが、導入する際にはいくつか注意したい点があります。
(1) レイアウトの見直しは必須
固定型設備はもちろん、AGV/AMR/AGFなどのロボットがスムーズに動けるように、倉庫のレイアウトを見直す必要があるかもしれません。
(2) 今のシステムとうまく連携できる?
在庫管理システム(WMS)など、既にお使いのシステムとしっかり連携させることが大切です。
(3) 将来のことも考えて
将来、扱う物量が増えたり、倉庫を拡張したりする可能性も考えて、柔軟に対応できるシステムを選ぶと良いでしょう。
ステップ1が特に効果的な倉庫って?
以下のような特徴を持つ倉庫では、『ステップ1』の搬送の自動化が特に大きな効果を発揮するはずです。
(1) 中規模以上の倉庫
ある程度の物量を扱っていて、自動化による効率アップの効果を感じやすい倉庫。
(2) 決まったルートでの搬送が多い倉庫
同じ場所から同じ場所へ、というような定型的な搬送作業が頻繁に発生する倉庫。
(3) 長距離の搬送が必要な倉庫
倉庫が広く、人が荷物を運ぶのに時間と手間がかかっている倉庫。
『ステップ1』である搬送の自動化を実現することで、倉庫内の物流効率は格段に向上し、次のステップへ進むためのしっかりとした土台ができます。
ただし、この段階ではまだ、それぞれの工程内での作業(例えば、棚から商品を取り出すピッキング作業そのものなど)は人の手で行われているため、完全な24時間無人稼働は難しいかもしれません。それは、次のステップ以降の課題となっていきます。
(参考記事)LogiMAT2024視察レポート:自動倉庫(ASRS)編
物流倉庫内の搬送作業の自動化に向けて、コンベヤ、AGV、AMRの比較と選び方をこちらの記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
ステップ2:『一つの作業』に特化した自動化 ― 単能工ロボットの活躍
『ステップ1』で倉庫内の『運ぶ』作業がスムーズになったら、次はいよいよ『ステップ2』です。ここでは、搬送以外の様々な作業工程そのものの自動化に目を向けていきます。このステップで目指すのは、『単能工的自動化』と呼ばれるものです。
なんだか難しそうな言葉が出てきましたね。でも、ご安心ください。この『単能工』というのは、平たく言えば「一つの機械やロボットシステムが、一つの特定の作業を専門にこなす」という意味なんです。例えば、「箱を開ける専門の機械」や「商品を棚に入れる専門のロボット」といったイメージです。
この段階では、倉庫内の様々な作業を一つ一つ効率化していくことで、全体の生産性をさらに高めていくことを目指します。
どんな作業が自動化できるの?
具体的に自動化の対象となる作業と、それを実現する技術の例をいくつか見てみましょう。
(1) 入荷の場面では…
- デバンニング(トラックからの荷降ろし)の自動化
(2) 入庫の場面では…
- パレットからの荷降ろし
- 段ボール箱を開ける作業
- 中の商品を取り出す作業
- 商品を保管棚や自動倉庫へ投入する作業
(3) 保管の場面では…
- 在庫の棚卸し作業
- 商品の配置を最適化するロケーション管理
(4) 出庫・ピッキングの場面では…
- 保管場所から商品を取り出すピッキング作業
- 注文ごとに商品を仕分ける作業
(5) 検品・梱包の場面では…
- 商品の種類や数量が合っているかを確認する検品作業
- 商品を箱詰めする梱包作業
- 出荷用のパレットに積み付けるパレタイズ作業
(6) 出荷の場面では…
- トラックへの荷積み
どんな技術があるの?
これらの自動化を実現するためには、様々な技術が使われます。
産業用ロボット
- 垂直多関節ロボット
人間の腕のような動きで、様々な作業に対応 - デルタロボット
素早い動きで、主にピッキングや整列作業に使われる - ガントリーロボット
広い範囲を移動しながら作業できる、門型のロボット
これらの産業用ロボットは、その汎用性の高さから様々な業務の自動化に利用されます。産業用ロボットと機械・装置を組み合わせることで様々な作業を自動化する「ロボットシステム」を構築します。
専用機
- 自動開梱機
入庫時にケース(ダンボール)を開ける - 自動仕分け機
まとめてピッキングした商品を注文ごとに振り分ける - 自動製函機
ダンボールを組み立てる - 自動梱包機
段ボールに商品を詰めて封をする - 自動ラベラー
出荷用に送り状を印刷・貼付する
専用機は、メーカーが特定の業務に特化した自動化システムを構築し、販売しています。産業用ロボットを用いたロボットシステムに比べて専用機は時間あたりの処理能力(スループット)が高い傾向があります。
センシング技術
- 画像認識
カメラで捉えた映像から、商品の種類や位置を判断 - RFID(Radio Frequency IDentification)
電波を使ってICタグの情報を読み書きする技術 - バーコード/QRコードリーダー
バーコードやQRコードを読み取る
物流ロボットの活躍の場は広がる?
最近では、産業用ロボットや人と一緒に働くことができる協働ロボットなど、様々な作業に対応できる柔軟性の高いロボット製品も増えてきています。しかし、実際の倉庫業務でこれらのロボットを活躍させるためには、それぞれの倉庫の状況に合わせて細かく設定を調整したり、専用のプログラムを組んだりといった『個別の作り込み』が必要になることが多いのが現状です。
そのため、今のところは、一つのロボットを特定の作業に特化させて使う、まさに『単能工的』な使い方が主流となっています。
これらの『単能工ロボット』の導入は少しずつ進んでいて、それぞれの作業の効率アップやミスの削減には貢献していますが、その活躍はまだ特定の作業に限られています。もっと柔軟に、色々な業務に対応できるようになるのは、次のステップの課題と言えるでしょう。
どんな良いことがあるの?
それぞれの作業を自動化することで、こんな効果が期待できます。
(1) 作業効率がさらにアップ
- 人が行うよりも速く、正確に作業を進められるようになります。
- 24時間連続で稼働させることも可能になり、処理できる量が格段に増えます。
(2) ヒューマンエラーを減らせる
- 機械が正確に作業するので、ピッキングミスや検品漏れといった人為的なミスが少なくなります。
(3) 人手不足に対応しやすくなる:
- 比較的単純な作業を自動化することで、貴重な人材を、もっと付加価値の高い業務に振り分けることができます。
(4) 作業する人の負担をさらに軽くできる
- 重いものを持ったり、同じ姿勢で作業を続けたりといった身体的な負担が減ります。
(5) データをもっと活用できる
- 自動化システムが作業に関する詳細なデータを集めてくれるので、それを分析して、さらなる業務改善につなげることができます。
導入する時に気をつけることは?
『ステップ2』の自動化を進める上でも、いくつか注意しておきたい点があります。
(1) どの作業を自動化するか、しっかり見極める
この段階では、一つのシステムが一つの作業しかこなせないので、どの作業を自動化するのが一番効果的か、皆さまの倉庫の業務を詳しく分析する必要があります。
(2) 初期投資はどれくらい?
高度な機械やロボットを導入するには、それなりの初期費用がかかります。投資した分をどれくらいで回収できるのか(ROI – Return On Investment)、慎重に検討することが大切です。
(3) 他のシステムとの連携は大丈夫?
在庫管理システム(WMS)や、ステップ1で導入した搬送システムなど、既存のシステムとうまく連携させることが重要です。
(4) 変化に対応できる?
扱う商品の種類や形が変わった場合にも対応できるような、ある程度の柔軟性も考慮しておくと良いでしょう。
(5) 使う人の教育も忘れずに
新しいシステムをスムーズに運用したり、簡単なメンテナンスをしたりするためには、従業員の方への教育やトレーニングも必要です。
『どの作業を自動化するか見極める』際のポイント
特に、『どの作業を自動化するか見極める』という点は、このステップの成否を分けると言っても過言ではありません。具体的には、以下の点に注意して進めると良いでしょう。
1. 効果を最大限に引き出すために
一つの自動化システムで一つの作業しか自動化できないからこそ、どの作業を選べば最も大きな効果が得られるのか、慎重に選ぶ必要があります。
2. 細かい業務分析がカギ
扱っている商品の種類(SKU数)や数、日々の出荷実績、それぞれの作業にどれくらいの時間がかかっているのかなどを細かく分析します。そうすることで、倉庫全体の中でどこがボトルネック(作業の流れを滞らせている箇所)になっているのか、あるいは、単純だけれども作業量が非常に多い業務は何か、といったことが見えてきます。
3. 費用対効果をしっかり分析
自動化システムを導入するのにかかる費用と、それによって得られる効果(人件費削減、処理能力向上など)を具体的に比較検討します。この分析をしっかり行うことで、無駄な投資を避け、本当に効果的な業務だけに自動化を導入することができます。
このように、慎重な分析と選定のプロセスを経ることで、『単能工的自動化』の効果を最大限に引き出し、投資効率の高い自動化を実現することができるはずです。
ステップ2が特に効果的な倉庫って?
以下のような特徴を持つ倉庫では、『ステップ2』の単能工的自動化が特に効果を発揮しやすいと考えられます。
(1) 大規模な倉庫
扱う物量が多く、自動化による効率アップの恩恵を大きく受けられる倉庫。
(2) 決まった作業が多い倉庫
ピッキングや梱包など、同じ作業を何度も繰り返すことが多い倉庫。
(3) 高い精度が求められる倉庫
例えば、医薬品や精密機器など、絶対にミスが許されない商品を扱っている倉庫。
(4) 人手を集めるのが難しい地域の倉庫
慢性的な人手不足に悩んでおり、自動化によってその課題を解決したい倉庫。
(5) 似たような形や特性の商品を多く扱う倉庫
自動化システムが対応しやすく、導入のハードルが比較的低い倉庫。
一方で、非常に多くの種類の商品を扱っていて、それぞれ形や大きさがバラバラ、というような倉庫では、全ての作業を自動化するのが難しい場合もあります。そのような場合は、自動化する対象を一部の商品に限定したり、人の手による作業とうまく組み合わせたりといった工夫が必要になるでしょう。
『ステップ2』の単能工的自動化によって、倉庫内の個々の作業効率は大きく向上します。しかし、この段階ではまだ、一つの自動化システムは基本的に一つの作業しか担当していません。そのため、異なる作業間の連携や、イレギュラーな事態への対応など、依然として人の判断や手に頼る部分が多く残っています。つまり、まだ『完全な自動化』には至っていない状態と言えますね。
次のステップでは、いよいよ、もっと柔軟で、もっと統合された自動化を目指していくことになります。一つの自動化システムが、まるでベテランの作業員のように、複数の異なる作業をこなせるようになる、『多能工的な自動化』への挑戦です。
(参考記事)LogiMAT2024視察レポート:ピッキングロボット編
ステップ3:『複数の作業』をこなす自動化 ― 多能工ロボットとAIの時代へ
いよいよ最後のステップ、『ステップ3』です。ここでは、一つの自動化システムが、まるで経験豊富な作業員のように、複数の異なる作業をこなせるようになる『多能工的な自動化』の実現を目指します。この段階に到達すると、自動化システムには、様々な状況に臨機応変に対応できる『汎用性』と『柔軟性』が求められるようになり、より統合的で、より高度な自動化の世界が広がります。
どんな作業が自動化できるの?
『多能工的自動化』では、これまで個別のシステムや人が行っていた作業を、一つのシステムがまとめて担えるようになるイメージです。
(1) 複数の作業をまとめて行う
例えば、棚から商品を選び出し(ピッキング)、それが正しいかを確認し(検品)、そして箱に詰める(梱包)という一連の流れを、一つのロボットシステムが担当する、といった具合です。
(2) 状況に応じて作業内容を切り替える
扱う商品や注文内容の特性に合わせて、システムが自動的に作業の手順や内容を変更します。
(3) 人と協力して作業する
全てを自動化するのではなく、時には人間とロボットが互いに得意な部分を分担し、協力し合って作業を進めることも考えられます。
どんな技術が必要なの?
これを実現するためには、さらに進んだ技術が必要になります。
(1) 高度なAIシステム
機械学習(Machine Learning)や深層学習(Deep Learning)といったAI技術を活用して、ロボットが自ら学習し、状況判断をしながら作業を制御します。
(2) 汎用性の高いロボット
人間の腕のように自由度の高い多関節ロボットや、人と安全に共同作業ができる協働ロボットなどが、より高度な役割を担います。
(3) より高性能なセンサー
例えば、物体の形や奥行きを三次元で捉えることができる3D視覚センサーや、物に触れた時の力の大きさを感知できる力覚センサーなどが使われます。
(4) 統合制御システム
複数の異なる作業を、一つのシステムがまとめて効率的に管理・制御するためのソフトウェアも非常に重要です。
物流ロボットの未来はどうなる?
この『ステップ3』の段階で特に注目されているのが、より高度なAI、特に『LLM(Large Language Models – 大規模言語モデル)』や『VLM(Visual Language Models – 視覚言語モデル)』といった、非常に汎用性の高いAI技術の開発と、それらを搭載した『ヒューマノイドロボット(人間型ロボット)』の登場です。
これらの最先端のロボットは、まるで人間のように、様々な作業を柔軟にこなし、状況に応じて自分で判断して動くことができるようになることが期待されています。まだ実用化に向けては初期の段階ですが、将来的には、倉庫内の多くの業務を、これらのロボットが担う日が来るかもしれませんね。
どんな良いことがあるの?
『多能工的自動化』が実現すると、こんな素晴らしい効果が期待できます。
(1) さらに高度な自動化へ
- 複数の作業を一つのシステムでまとめて行えるようになるため、効率が飛躍的に向上します。
- 作業と作業の間の待ち時間や手戻りが減り、全体の処理スピードが格段に速くなります。
(2) 柔軟性が格段にアップ
- 様々な種類の商品や、多様な注文内容にも対応できる、汎用性の高いシステムが実現します。
- 季節による需要の変動や、新しい商品の導入などにも、柔軟に対応しやすくなります。
(3) スペースを有効活用できる
- これまで複数の機械や作業スペースが必要だったものが、一つのシステムに集約されることで、倉庫内のスペースをより効率的に使えるようになります。
(4) 投資効率も向上する可能性
- 一つのシステムで複数の作業をカバーできるようになれば、トータルで見た時の投資対効果が高まる可能性があります。
(5) 人への依存度をさらに減らせる
- より多くの作業を自動化することで、人が行っていた作業をさらに減らすことができます。
導入する時に気をつけることは?
夢のような『多能工的自動化』ですが、実現するためには、いくつかのハードルも存在します。
(1) 求められる技術レベルが高い
AIや最先端のロボット技術など、より専門的で高度な知識や技術が必要になります。
(2) システム設計が複雑になる
複数の異なる作業を、一つのシステムでスムーズに行わせるためには、非常に綿密で複雑なシステム設計が求められます。
(3) 初期投資がさらに大きくなる可能性も
より高度で多機能なシステムになるため、導入にかかる初期費用も大きくなる傾向があります。
(4) 運用やメンテナンスも複雑に
高度なシステムを安定して動かし続けるためには、専門的なスキルを持った人材による運用や保守が不可欠です。
(5) 人材育成がますます重要に
このような高度なシステムを使いこなし、管理できる人材を育てていくことが、これまで以上に重要になります。
ステップ3が特に適しているのはどんな倉庫?
『ステップ3』のような高度な自動化は、どのような倉庫にもすぐに適用できるわけではありません。以下のような特徴を持つ倉庫や企業で、その真価を発揮すると考えられます。
(1) 大規模で複雑なオペレーションを行う倉庫
非常に多くの種類の商品を扱い、作業工程も多岐にわたるような、大規模な物流センターなど。
(2) 高い柔軟性が求められる倉庫
季節によって扱う商品が大きく変わったり、急な需要の変動に対応しなければならなかったりする業種の倉庫。
(3) 長期的な視点で自動化戦略を持つ企業
目先のコスト削減だけでなく、将来を見据えて、継続的に技術革新に取り組み、投資を続けていける体力のある企業。
(4) 高度な技術力を持つ企業
AIやロボット技術に精通した技術者を社内に抱えている、あるいはそうした専門家と密接に連携できる企業。
『ステップ3』の多能工的自動化によって、物流倉庫の自動化は、より高度で、より統合された、新しい次元へと進化していきます。しかし、どんなに技術が進歩しても、やはり人間の判断や臨機応変な対応が必要となる場面は、完全にはなくならないかもしれません。完全な無人化、全自動化を目指す道のりは長く、さらなる技術の進化と、それを使いこなすためのノウハウの蓄積が、これからも求められていくことでしょう。
(参考記事)生成AI×物流ロボット:VLM/LLM活用によるピッキングロボットの進化
さいごに ― 皆さまの倉庫に最適な自動化のカタチとは?
ここまで、物流倉庫の自動化がどのように進んでいくのか、そのステップを『ステップ0』から『ステップ3』まで、一緒に見てきました。いかがでしたでしょうか?働く人の確保がますます難しくなる中で、倉庫の効率を上げ、生産性を高めていくことは、本当に待ったなしの課題だと感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
しかし、お分かりいただけたように、自動化への道のりは、決して一足飛びに進むものではありません。それぞれの会社や倉庫の状況に合わせて、一歩一歩、段階的に進めていくアプローチが大切になります。
今回ご紹介した成熟度モデルは、あくまで一つの『道しるべ』です。何よりも重要なのは、まず皆さまご自身の倉庫の現状をしっかりと把握し、そして、どのステップから始めるのが最適なのか、どこを目指すのが良いのかを見極めることです。
物流倉庫自動化のはじめの一歩
そのためには、具体的にどのようなことから始めていけば良いのでしょうか?改めていくつかヒントをお伝えします。
1. まずは現状をじっくり分析してみましょう
毎日どれくらいの量の荷物を扱っているのか、商品の種類(SKU数)はどれくらいか、何人のスタッフで作業しているのか、コストはどれくらいかかっているのか…など、ご自身の倉庫の今の姿を、できるだけ詳しくデータで捉えてみることが第一歩です。
2. 課題をはっきりさせましょう
「もっと作業スピードを上げたい」「ミスを減らしたい」「コストを抑えたい」「働く人の負担を軽くしたい」など、色々な観点から、今抱えている課題を洗い出してみましょう。
3. 世の中の動きも見てみましょう
皆さまの会社が属している業界はこれからどうなっていくのか、ライバル企業はどんな取り組みをしているのか、といった市場の動向を調べてみることも参考になります。
4. 投資と効果を試算してみましょう
それぞれのステップで自動化を進めるために、どれくらいの費用が必要で、それによってどんな効果(人件費削減、処理能力向上など)が期待できるのか、大まかでも良いので試算してみることが大切です。
5. これからの計画を立ててみましょう
すぐに取り組むこと、少し先に目指すこと、そして将来的にはこうなりたい、といった短期・中期・長期の視点で、自動化を段階的に進めていくためのロードマップ(計画)を作ってみるのも良いでしょう。
BLUEDGEの倉庫自動化コンサルティングについて
私たちBLUEDGEは、物流業界に特化したコンサルティングと、それを実現するためのシステム開発の経験と知識を活かして、皆さまの業務改善や倉庫自動化の取り組みを、様々な角度からお手伝いさせていただいています。
- 「うちの倉庫、何から手をつければ良いんだろう?」という最初の段階での『現状分析・課題抽出サービス』
- 「将来を見据えて、どんな自動化戦略を立てれば良いの?」というご相談に対する『自動化戦略立案支援』
- 「具体的にどんなシステムを選べば良いの?導入はどう進めるの?」といった疑問にお答えする『システム選定・導入支援』
- 「既存のシステムでは対応できない…」という場合の『カスタマイズ開発』
- そして、導入後も安心してお使いいただくための『運用支援・改善コンサルティング』
もし、「うちの倉庫も、もっと良くできるかもしれない」「自動化について、誰かに相談してみたい」と感じていらっしゃいましたら、どうぞお気軽にお声がけください。皆さまの倉庫が、より効率的で、より働きやすい場所になるためのお手伝いができれば、私たちにとってこれ以上の喜びはありません。
まずは、皆様の倉庫の現状や課題についてお聞かせください。当社では、無料相談を通じて、お客様の具体的な状況に応じたアドバイスを提供しています。自動化の第一歩を踏み出すきっかけとして、ぜひこの機会をご活用ください。
物流倉庫の自動化は、単なる効率化だけでなく、従業員の働き方改革や、より付加価値の高いサービス提供にもつながります。皆様の倉庫業務が進化し、新たな価値を生み出すお手伝いができることを、心より楽しみにしております。
物流ロボット関連のインサイト
- 物流倉庫自動化の基礎:物流倉庫向けロボットの基礎知識
- LogiMAT2024視察レポート:ピッキングロボット編
- LogiMAT2024視察レポート:自動倉庫(ASRS)編
- 物流倉庫へのロボット導入 成功への10のポイント
- 物流ロボット「ピースピッキングロボット」とは? 基本的な構成と動作の流れ
- 生成AI×物流ロボット:VLM/LLM活用によるピッキングロボットの進化
BLUEDGE(ブルーエッジ)について
BLUEDGE(ブルーエッジ)では、 「あるべき姿」をともに描くコンサルティング と 「あるべき姿」をカタチにするシステム開発 を通じて、お客様の戦略策定から実行までを一貫体制でご支援しています。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)会員。
著者プロフィール
守谷祥史(Shoji Moriya)
BLUEDGE合同会社 代表社員CEO。15年以上にわたり製造業、小売・流通業、物流業などを中心に幅広い業界に対する事業/IT戦略の立案と業務改善、システム導入など実行に関するコンサルティングに従事。現在は、主にサプライチェーン・物流分野におけるソフトウェア、クラウド、AI、ロボティクスなどテクノロジー活用に関するコンサルティングとシステム開発を専門としている。