ビジネスにおける「〇〇戦略」の全体像

著者:代表社員CEO 守谷祥史

ビジネスにおける「〇〇戦略」の全体像

はじめに

皆さまは、日々のビジネスシーンで「〇〇戦略」という言葉を耳にする機会が多いのではないでしょうか?「経営戦略」「事業戦略」「マーケティング戦略」など、たくさんの「戦略」がありますが、それらが一体何を指し、互いにどう関係しているのか、少し分かりにくいと感じることもあるかもしれません。

この記事では、そんな「〇〇戦略」という言葉が持つ意味や、それぞれの戦略がビジネス全体の中でどのような位置づけにあるのかを、分かりやすく解説していきます。この記事を読むことで、「〇〇戦略」の種類とその関係性についての理解が深まり、皆さまのビジネスにおける戦略的な思考の一助となれば幸いです。

ビジネスにおける「戦略」とは? まずは基本から

そもそも「戦略」とは何を指すのでしょうか?まずは、一般的な意味とビジネスにおける意味合いを確認していきましょう。

一般的な「戦略」の定義

もともと「戦略」という言葉は、軍事の世界で使われていた専門用語です。戦場で優位に立つための、大局的で長期的な視点に基づいた策略や計画を指していました。

一般的に「戦略」とは、ある特定の目的を達成するために、長期的な視野と複合的な思考をもって、持っている力や資源を総合的にうまく使うための技術や考え方、と定義されています。

時を経て、この「戦略」という考え方は、企業の経営戦略や経済戦略、外交戦略など、ビジネスをはじめとする様々な分野で応用されるようになりました。

ビジネスにおける「戦略」の定義

ビジネスの世界で「戦略」という言葉が使われるとき、それは一般的に以下のような意味合いを含んでいます。

  • 企業が目指す長期的な目的や目標を達成するための、『活動の方向性や計画』のこと。
  • 時には、その目的や目標自体を定める活動を指す場合もあります。
  • 日々の業務に関わる短期的な目標設定や、その達成に向けた資源(人、モノ、カネ、情報など)の配分計画を含むこともあります。
  • 戦略は、会社全体、特定の事業部、あるいは各部門(営業、マーケティング、開発など)といった、さまざまなレベルで考えられ、実行されます。

つまり、ビジネスにおける戦略とは、企業が掲げるミッションやビジョンといった『長期的なゴール』に到達するための、包括的な羅針盤のようなものと言えるでしょう。組織全体が進むべき道筋を示します。

ただし、実際のビジネスの現場では、「戦略を立てる」という場合、長期的な目標達成のための『手段』としての活動方針や計画を考えるだけでなく、達成すべき『長期的な目標そのもの』を明確にすることも含まれるケースがあります。この点は少し注意が必要かもしれませんね。

このように、ビジネスにおける戦略は、会社全体、事業単位、部門単位など、さまざまな階層やテーマごとに策定されるため、たくさんの「〇〇戦略」という言葉が生まれるのです。

ここで整理!「戦略」「戦術」「運用」の違いは?

「戦略」と似た言葉に「戦術」や「運用」があります。これらはどのように違うのでしょうか?

  • 戦略 (Strategy): 長期的な目標を達成するための『大きな方針や計画』。羅針盤や設計図に例えられます。
  • 戦術 (Tactics): 戦略を実行するための、より具体的で『短期的な目標達成の方法』。戦略に比べて、状況の変化に合わせて柔軟に変更されます。設計図をもとにした具体的な作業手順のようなイメージです。
  • 運用 (Operation): 戦術を実行するために日々行われる『具体的な活動やプロセス』。日々の業務そのものです。

戦略が長期的な視点での大きな計画であるのに対し、戦術はより短期的な目標達成のための具体的な行動計画です。そして運用は、その戦術を日々実行していく活動を指します。

戦術や運用は、戦略に比べると、市場の変化や競合の動きなどに応じて、より柔軟に対応していくことが求められます。「長期的な目標(戦略)は見失わずに、日々の改善(運用)や状況変化への臨機応変な対応(戦術)を行う」というバランスが大切になりますね。

たくさんある「〇〇戦略」、その全体像をつかもう

さて、ここからは様々な「〇〇戦略」が、全体としてどのように整理できるのかを見ていきましょう。「〇〇戦略」は、大きく分けて以下の4つのカテゴリーに分類することができます。

  1. 全社戦略: 会社全体の方向性を決める戦略
  2. 事業戦略: 個々の事業の戦い方を決める戦略
  3. 機能戦略: 各部門(機能)の役割を具体化する戦略
  4. テーマ別戦略: 特定の課題や目的に特化した戦略

これらの関係性を図で示すと、以下のようになります。

図1:全社戦略 > 事業戦略 > 機能戦略 + テーマ別戦略 図1:全社戦略 > 事業戦略 > 機能戦略 + テーマ別戦略

それぞれの戦略について、もう少し詳しく見ていきましょう。

1. 全社戦略(会社全体の羅針盤)

全社戦略は、企業が持つ複数の事業間の相乗効果(シナジー)を最大限に活かしながら、会社全体の長期的な目標を達成するための『最も上位の戦略』です。「コーポレート戦略」とも呼ばれます。通常、この戦略の策定や実行の責任は、取締役会やCEO(最高経営責任者)が担います。

全社戦略で主に検討されるのは、以下のような内容です。

  • どの事業領域に進出するか、あるいは撤退するか(事業ポートフォリオ管理)
  • 新しい事業を立ち上げるか(新規事業開発)
  • 他の会社を買収するか、合併するか(M&A)
  • 他の企業と協力するか(戦略的パートナーシップ)
  • 会社全体のルール作り(ガバナンスポリシー)
  • 資金調達や投資の計画(財務構造)
  • 会社全体としての人材や資金などの資源を、どの事業にどれだけ配分するか

全社戦略は、主に『どの事業で戦うか』を決める戦略であるため、もし会社が一つしか事業を持っていない場合は、次に説明する「事業戦略」と一体で考えられることも少なくありません。

2. 事業戦略(個々の事業の戦い方)

事業戦略は、特定の事業部門が、その市場の中で『どのように競争して勝ち残るか』、そして事業の長期的な成功を実現するための具体的な方針や計画に焦点を当てます。「ビジネス戦略」とも呼ばれます。通常、各事業部門の責任者や事業部長などが、この戦略の策定と実行を担います。

事業戦略には、以下のような内容が含まれます。

  • どの顧客層をターゲットにするか(市場選定)
  • 競合と比べてどのような独自の価値を提供するのか(ポジショニング)
  • どのような製品やサービスを開発・提供していくか(製品開発方針)
  • どのように顧客に製品やサービスを届け、販売していくか(マーケティング・販売方針)
  • 事業を運営するために、どのような資源(人、モノ、カネ、情報)がどれだけ必要か(資源配分)

事業戦略は、全社戦略で示された会社全体の目標や方向性を踏まえつつ、それぞれの事業が置かれている独自の市場環境や競争状況に合わせて策定される必要があります。各事業部門は、自らの事業戦略を通じて競争優位性を築き、会社全体の目標達成に貢献することが期待されます。

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3. 機能戦略(各部門の具体的なアクションプラン)

機能戦略は、事業戦略をさらに具体化し、事業部内の各部門(機能)が、それぞれの専門領域で『何を実行するか』を定める戦略です。これにより、各部門の活動が、事業戦略や全社戦略としっかりと連携するようにします。

機能戦略の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • マーケティング戦略: どのように製品やサービスの価値を顧客に伝え、需要を創出するか
  • 営業戦略: どの顧客に、どのようにアプローチし、販売目標を達成するか
  • 人事戦略: 事業目標達成に必要な人材をどのように採用・育成・配置するか
  • IT戦略: IT技術をどのように活用して、業務効率化や競争力強化に貢献するか
  • 財務戦略: どのように資金を調達し、管理・運用するか

各部門の責任者が、それぞれの機能戦略の策定と実行を担当します。

企業によっては、特定の機能部門(例えば人事部やIT部)が、複数の事業部門を横断的にサポートしている場合があります。このような場合、例えばIT戦略は、異なる事業部間の情報共有を円滑にしたり、共通の技術基盤を整備したりすることで、会社全体の効率性や競争力を高めることを目指します。

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4. テーマ別戦略(特定の課題や目的に特化)

これまで見てきた全社戦略、事業戦略、機能戦略は、主に企業の組織構造(会社全体、事業部、部門)に沿って分類される戦略でした。

それに対して『テーマ別戦略』は、組織の構造に関わらず、企業が直面する特定の課題や達成したい目標など、『特定のテーマ』に焦点を当てて策定される戦略と整理できます。いくつか例を見てみましょう。

(例1)成長戦略

「成長戦略」は、文字通り、会社全体または特定の事業を『成長させる』ことを目的とした戦略です。市場シェアの拡大、新規市場への進出、新製品開発、M&Aによる規模拡大など、成長を実現するための方針や計画に焦点を当てます。

時には、全社戦略や事業戦略の中でも特に「成長」という目的に重点を置いている場合に、その戦略を分かりやすく「成長戦略」と呼んでいるケースもあります。

(例2)DX戦略 (デジタルトランスフォーメーション戦略)

「DX戦略」は、デジタル技術を活用して、企業のビジネスプロセス、組織文化、顧客体験、そして提供価値そのものを『根本的に変革する』ことを目指す戦略です。

単なるIT導入にとどまらず、ビジネスモデルの変革まで視野に入れる点で、機能戦略としてのIT戦略とは少し異なります。全社戦略や事業戦略と密接に連携し、相互に影響を与えながら進められることが多いと考えられます。

(例3)生成AI活用戦略

最近注目されている「生成AI」のように、特定の技術トレンドに対応するための戦略もテーマ別戦略の一つです。例えば、「生成AI活用戦略」は、文章、画像、コードなどを自動生成するAI技術を、自社のビジネスにどのように取り入れ、活用していくか(あるいは、今は活用しないのか)を定める戦略です。

このような新しい技術が、市場環境や自社の競争力にどのような影響を与える可能性があるのかをいち早く把握し、会社としての方針を明確にしておくことは、変化の激しい現代において非常に重要と言えるでしょう。

これらの戦略策定に関して、「何から手をつければ良いか分からない」「専門家の意見を聞きたい」といったお悩みはありませんか?もしよろしければ、私たちにご相談ください。貴社の状況に合わせた最適な戦略作りをサポートいたします。

さいごに

今回は、ビジネスシーンでよく耳にする様々な「〇〇戦略」について、その基本的な意味から、全社戦略、事業戦略、機能戦略、そしてテーマ別戦略という4つの分類まで、全体像を解説してきました。

ビジネスにおける「戦略」とは、長期的な目標を達成するための『活動の方向性や計画』であり、企業の階層や特定のテーマに応じて様々な種類があることをご理解いただけたでしょうか。

重要なのは、「〇〇戦略」という言葉の定義は、話している人や文脈によって少しずつニュアンスが異なる場合があるということです。ですから、戦略について議論する際には、「この戦略が対象としている範囲はどこか?」「目指しているゴールは何か?」「計画の時間軸はどれくらいか?」といった点について、関係者間で認識をしっかりと合わせることが、建設的な議論を進める上でとても大切になります。

この記事が、皆さまの「〇〇戦略」という言葉に対する苦手意識を少しでも和らげ、日々のビジネスにおける戦略的な思考を深めるきっかけとなれば、私たちにとってこれほど嬉しいことはありません。

BLUEDGE(ブルーエッジ)について

当社では、 「あるべき姿」をともに描くコンサルティング「あるべき姿」をカタチにするシステム開発 を通じて、お客様の戦略策定から実行までを一貫体制でご支援しています。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)会員。

著者プロフィール

守谷祥史(Shoji Moriya)

BLUEDGE合同会社 代表社員CEO。15年以上にわたり製造業、小売・流通業、物流業などを中心に幅広い業界に対する事業/IT戦略の立案と業務改善、システム導入など実行に関するコンサルティングに従事。現在は、主にサプライチェーン・物流分野におけるソフトウェア、クラウド、AI、ロボティクスなどテクノロジー活用に関するコンサルティングとシステム開発を専門としている。

著者:代表社員CEO 守谷祥史

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